内部監査は、もはや保証だけでは評価されません。CFOを含む経営陣は、行動に直結する洞察を迅速に得たいと考えています。しかし多くの監査チームは、技術的には正確でも、経営層が本当に求める価値を提供することに苦戦しています。
そんな中、今回はSalesforceの内部監査ディレクター、Christina Kallai氏と、Fresh FP&AのCEO、Chris Ortega氏を招いてウェビナーを開催。内部監査に今期待される役割とは何なのか、どのような要素が監査チームを「信頼されるパートナー」に変えるのかを、実務的な視点からディスカッションしました。
本レポートでは、ウェビナーで語られた具体的なKPIやAI活用法、内部監査の価値を高めるアクションを整理し、その要点をご紹介します。
1. CFOからの期待の変化: 「何が起きたか」から、「次に何をすべきか」へ
従来の内部監査の手順は、計画を立て、それを実行し、報告書にまとめるというのが一般的な流れでした。しかしOrtega氏は、この手順がもはや機能しなくなっていると指摘します。「内部監査がCFOにもたらす根本的な問いは、『我々は何をすると言い、実際に何をしたのか』だけでなく、最も重要なのは『それに対してこれからどうするのか』という未来志向の視点です。」
スピード感のある環境で働くCFOにとって、過去を振り返るだけの報告書は十分ではありません。本当に価値を生むのは、単に結果を確認するだけでなく、ボトルネックを重大な問題になる前に特定できるような、課題やリスクを先回りして検討し、経営判断に寄り添う形で関わる監査機能です。
Kallai氏は、内部監査は必ずしも形式的な保証プロジェクトを実施する必要はないと言います。企画の計画段階で会議に参加し、他の誰も聞かないリスクについて問いかけ、何かが起きる前にフィードバックを提供するだけで、十分な価値を生み出すことができます。
「何が起きたか」を聞かれる存在から、「次に何をすべきか」を一緒に考える存在へ。その転換こそが、今CFOが内部監査に求めていることです。
2. 距離より信頼。内部監査が目指すべき姿
ウェビナーで最も議論を呼んだテーマの一つが、内部監査の独立性です。従来の他のチームと一定の距離を保つスタンスは、今も有効なのでしょうか?
Ortega氏の見解は、内部監査に独立性を求めることは、むしろ間違いだというものです。それに、内部監査チームが隅のほうで作業をこなし、報告書を渡して終わりだとしたら、それは独立しているのではなくただ孤立しているだけです。孤立した部門は、重要な意思決定の場に呼ばれることはありません。
Kallai氏は、内部監査が目指すべきは他部署と信頼関係を築くことだと説明しました。こうした信頼関係があれば、内部監査は部門の業務に密接に関わりながらサポートすることができます。重要なのは、その関係性が恐怖ではなく信頼に支えられていることです。
Kallai氏は「誰だって監査されたくないものです。報告書が出たらどうなるんだろう、という恐れがあります。 そこには、組織としての文化とリーダーシップのあり方が大きく影響しています。」と述べました。こうした、内部監査チームが引き起こしがちな外部監査が来たときのような緊張感は、まったく逆に転換できます。内部監査の役割は、外部監査が入るときにビジネスが自信を持って臨めるよう支えることです。「問題を暴きに来た」ではなく、「皆が安心して仕事できるようにする」という姿勢が、まったく異なる価値を生みます。
この状態を実現する鍵は、他部署との日々の関わりにあります。経営層との定期的な対話、現在の課題についての問いかけ、そして話したことを誠実に実行すること。チームとしてどれだけ信頼を積み重ねてきたかが、内部監査の価値を左右します。
3. 今の内部監査の価値を正しく測るKPI
「リスクカバレッジや監査計画の達成率といった従来指標を超えて、CFOが内部監査の価値を評価するために本当に使うべきKPIとは何か?」という質問が、ウェビナー参加者から挙がりました。
登壇した二人からは、実務に根ざした具体的な指標がいくつか挙がりました。
Kallai氏:
- サイクルタイム:監査の開始から完了までにかかる時間を計測。効率性の向上やチームの生産性を示す指標として有効です。
- 是正措置の完了率:重大な指摘事項がどう実際に対処・解決されているか。ここにこそ、監査の実効性と責任が現れます。
Ortega氏:
- 新たなビジネス領域への関与実績:いつも同じ領域だけを監査していると、チームの影響力や価値は広がりません。「四半期ごとに最低2つの新しい部門とパートナーシップを築く」といったOKRに落とし込む方法も効果的です。
Ortega氏の視点は、監査の件数ではなく、会社のどれだけの領域を理解し、貢献できているかに重きを置いています。この発想の転換が、内部監査の価値を再定義するヒントになるかもしれません。Kallai氏が示したサイクルタイムや是正措置の完了率などの指標と組み合わせることで、内部監査チームの価値をより多角的に、そして説得力を持って示せるようになるでしょう。
4. AIの実践的活用法と注意点
AIの活用は、単なる効率化にとどまらず、内部監査の質を高める強力な手段になります。ウェビナーでは、具体的な活用例として以下の意見が挙がりました。
Kallai氏は、SalesforceではNotebookLMのようなAIツールを使い、外部調査や戦略文書を読み込ませて監査計画に役立てていると紹介しました。一方Ortega氏は、文書をAIに読み込ませて、「ボトルネックや潜在的な欠陥を特定する」と指示することが、テストの焦点を絞るうえでの優れた出発点になると指摘しています。AIで80%の作業を事前に終わらせ、残りの20%に集中することで、監査チームがより戦略的に、ビジネスパートナーとしての時間を確保できます。
ただし、AI導入にあたっては注意も必要です。Kallai氏は、まずは既存プロセスを一歩引いて見直し、再設計することが重要と指摘します。既存のプロセスに単純にAIの機能を当てはめるだけでは、本来の効果は得られません。テクノロジーをどう組み込むかを慎重に考えることで、初めてAIが監査業務の価値を最大化してくれます。
5. 今日から意識したい具体的なアクション
ウェビナーの最後に、登壇者の二人から参加者へ向けて、内部監査の価値を高めるための具体的な行動のヒントが紹介されました。
Kallai氏: 「経営戦略の議論に参加すること。ビジネス戦略を理解していなければ、真の価値を提供することはできません。」
Ortega氏: 「営業・マーケティング部門を理解することです。何か手伝えることはあるかと声をかけ、部門の活動やプロセスに触れることで、内部監査担当者としての洞察力が高まります。会社がどのように売上を作り、契約を結び、パイプラインを管理しているかを理解することで、本当に重要なリスクを見抜く力もつきます。」
両氏の共通点は、「内部監査は単なるチェック作業ではなく、ビジネスの全体像を理解し、戦略的に価値を提供する立場である」という視点です。こうした行動は、今日から意識して取り組みながら、段階的に習慣化していくことが重要です。
おわりに
今回のウェビナーで共通して強調されたのは、内部監査が価値あるパートナーとして認められるためには、「単に監査を完了する」だけでは不十分だという点です。経営陣は、リスクを正確に評価し、戦略的に意思決定をサポートする洞察を求めています。
Kallai氏とOrtega氏が示したポイントは、監査チームが日々の業務で意識すべき指針でもあります。経営戦略や各部門の業務を理解し、AIやKPIを活用して効率と分析力を両立させること。これにより、監査チームは表面的なチェック作業から脱却し、ビジネス全体に影響を与える存在へと成長できます。
内部監査の役割を再定義し、信頼されるパートナーになるためには、今日の議論をヒントに、段階的かつ戦略的に取り組むことが重要です。今回紹介した指標やAI活用の考え方を、自チームの次のステップとしてぜひ検討してみてください。

